SAR(合成開口レーダ)で何ができる?SARの基本から防災等への活用事例まで

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日本は地震や津波、土砂災害、高潮などなど、様々な自然災害が起こる国であり、普段からよく災害関係のニュースが流れてきますが、災害が発生した場合、現場の状況をどれだけ早く把握できるかによって、消防署や自衛隊の方々の救助活動や、避難物資の供給スピードが大きく変わってきます。

現場の状況をいち早く把握する為に、衛星から災害現場の状況を把握しようとする動きが昨今頻繁におこなわれており、2006年には防災府省庁連絡会”防災のための地球観測衛星等の利用に関する検討会”が開催され、ALOS-2(だいち2号)というJAXAの衛星を防災に活発に役立てることが決まり、さまざまな研究機関・学術機関が災害に衛星画像を役立てようと頑張っています。

そんな中、最近ではSAR衛星画像というものが注目を集めています。

SAR技術は、雨や雪が降っていようと、真っ暗闇の真夜中でも、地上の状況を画像としてとらえることができる優れものです。

今回はそんなSAR技術がどのように防災に活かせるのか、についてまとめたので、ぜひご覧ください!

SARとは

そもそもSAR(Synthetic Aperture Radar)って何なのかというと、マイクロ波を地表面に斜めに照射し、地表面からの後方散乱波を受信する能動型センサのことをいいます。マイクロ波は、雲を通過することができ、観測に太陽光を必要としないため、雨でも雪でも全天候で観測でき、しかも夜間の観測も可能な超便利な電磁波です。

災害時には、いち早く現場の状況を把握することが、消防署や自衛隊の方々の救援・救助活動のスピードに大きく関わってくるため、災害が起きた現場の状況を、雨の日でも雪の日でも、はたまた台風の時でも空から撮影できるSARの技術は、防災ととても相性がいい!ということで、近年SARの技術を防災に活かそうとする動きが盛んにおこなわれています。

SAR画像と光学画像の違い

SAR衛星・・・衛星自ら照射した電波の反射情報から地表面を観測する衛星
光学衛星・・・対象物に反射した太陽光の情報から地表の様子を観察する衛星

SAR画像は普段の画像とどのように違うのでしょうか。

通常自分たちがスマートフォンやカメラで撮影する写真は、光学衛星と同じように対象物に反射した太陽光の可視光線をとらえており、光学画像の部類に入ります。

一方で、SAR画像は、マイクロ波という、可視光線より波長の長い電磁波を利用することで物体をとらえるような仕組みとなっています。

図:マイクロ波と可視光線の波長の分布

マイクロ波は色として感知することができないため、マイクロ波を使うSAR画像はモノクロ写真となります。

次の写真は、同じエリアを光学衛星とSAR衛星で撮影した画像を比較したものです。

光学画像(左)と単偏波SAR画像(右)の違い
https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0760pdf/ks076005.pdf

この他にも、SAR衛星画像と光学衛星画像を比較すると次のような違いがあります。

SAR衛星画像光学衛星画像
波長マイクロ波人間の目で捉えられる可視光線
モノクロ画像フルカラー(普段の写真に似てる)
撮影条件悪天候や真夜中でも撮影可能雲に覆われていたり夜では撮影できない
メリット太陽の光や天候に左右されず、対象物の変化を検出しやすいフルカラーで直感的に対象物を判別しやすい
観測頻度観測頻度が少ない(14日に1回など)観測頻度が比較的多い
SAR衛星と光学衛星を比較した違い

SARのメリット

光学衛星画像と比べて、SAR衛星画像はモノクロで直感的に分かりにくいため、SAR衛星を運用する利点はないように思えます。

しかし、SAR画像は光学画像にはない次のような利点があります。

① 悪天候でも真夜中でも撮影できる
② 時系列比較がしやすい(干渉、重ね合わせ)

メリット① 悪天候でも真夜中でも撮影できる

SAR画像で用いるマイクロ波は雨や雲を通過することができ、さらに能動型SAR衛星を用いた観測には太陽光を必要としないという特徴があります。

そのため、全天候で観測でき、夜間の観測も可能です。

もし仮に地震や津波などの災害が起こったとして、現場の状況を観測するために衛星画像を用いたいとなったとしても、通常の光学画像だと雲や雨を透過できないため、晴天でないと地表面での災害状況を観測できません。
真夜中でも同様に地表面の状況を衛星で観測することは無理に等しいです。

SAR衛星を用いて観測すると、くもりや雨などの天候や昼夜を問わず、観測地点を24時間観測することができるため、とても便利です。

メリット② 時系列比較がしやすい

SAR衛星で取得した画像は、雲や雨や太陽が出ているかどうかに関係なく、観測地点に到達すれば24時間365日いつでも同じ条件でその地点を観測することが可能です。

そのため、定期的に指定のエリアの観測を続けていき、データを時系列に並べて比較・変化を観測するということが容易にできます

災害時などの緊急時に、緊急撮影されたものと同じ仕様のSAR画像のアーカイブ画像があれば、それぞれ画像の色を異なるものにするなど加工をした上で重ね合わせた画像を作ることで、二時機関の変化を容易に抽出できます。

また、複数のSAR画像で取得したマイクロ波の位相差を求めることで、あるエリアの地殻変動や地盤沈下の影響を視覚的にとらえることもできます。(干渉SARといいます)

SARの災害対策への利用事例

では、SARは災害や防災にどのように活用されるのでしょうか?

SARの防災への活用事例として、次のようなものがあります。

①地表面の地盤沈下や地殻変動の確認
②災害時の大規模土砂崩れや断層被害の確認
③森林伐採監視

地表面の地盤沈下や地殻変動の確認

SAR画像を複数重ね合わせて、取得したマイクロ波の位相差を求めることで、あるエリアの地殻変動や地盤沈下の影響を数センチ単位で観測することが可能となります。

地盤沈下観測等における衛星活用マニュアル
https://www.env.go.jp/press/files/jp/105997.pdf
Credit:環境省

上は、複数のSAR画像の位相差を求めて比較し、位相差が生じた部分を色をつけて表すことにより、対象のエリアの地盤沈下を測定している図です。
この図では、中央右部分のエリアを中心に1年で2㎝前後地盤沈下していることが分かります。

この技術をもちいて、地盤の沈下や隆起を数センチ単位で発見することができるため、
現在目視で行われているトンネルや道路、建築物の点検にも活用されることが期待されています。

災害時の大規模土砂崩れや断層被害の確認

地震や大雨によって大規模な土砂災害が起こった際、SAR衛星画像を利用して現地での広域な災害状況を把握できます。

国土交通省 2020-04 国総研資料 第1110号 より

上の図は、2020年7月に豪雨によって広島で発生した大規模土砂災害を、SAR衛星で観測したようすです。土砂災害の様子をとらえられていることが分かります。

(参考:https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn1110pdf/ks1110.pdf

森林伐採監視

すこし災害や防災と離れますが、日本国内だけでなく世界で行われている森林伐採を監視することで、不当な森林伐採を抑制し、大気中のCO₂削減による環境問題への寄与も可能です。

特に熱帯雨林は熱帯雨林気候で年中高温多湿、多雨の環境にあり、光学衛星で常時観測することが難しくなります。

SAR衛星を用いると現地の気象条件に関係なく観測することが可能なので、不法な伐採を監視・抑制することができます。

アマゾンの森林伐採監視 
https://www.sapc.jaxa.jp/case/domestic/amazon/
Credit:JAXA

このように、SAR衛星画像を用いた災害や環境対策への試みが現在多くなされており、今後もその活躍の舞台が拡大することが期待されています。

SAR画像の限界

次に、SAR衛星画像の限界を記しておきます。

上に記したように、SAR衛星は従来の光学衛星画像では見られなかった夜間や気候の悪い場合でも晴天のときと同じように地上を観測することができ、今まで観測不可能だった部分が見られるようになりました。

SAR衛星を用いて色々なことができますが、SAR衛星を用いた観測にも限界があります。
たとえば、次のようなものがあります。

  • 観測頻度の限界
  • 解像度の限界
  • 観測できないエリアが存在する

観測頻度の限界

まず限界の一つ目として「観測頻度の限界」があります。

SAR軌道の多くは「太陽同期準回帰軌道」を取っており、観測したいエリアを常に観測できるわけではなく、観測したいエリアを全く同じ条件で観測するためには、何日間隔で同じ地域の上空を通過するかという回帰日数を考えなければなりません。

(SAR衛星の軌道について詳しく知りたい方は、こちらの補足ページを参照ください)

例えば、2014年に運用を開始した日本のSAR衛星であるだいち2号の回帰周期は14日となっており、14日に1回しか全く同じ条件で一つのエリアを観測することができません

あるいは、だいち2号は完全に同じ地点でなくても、実際には一日に2回、ほぼ同じ地域の上空を通過することができますが、それでも迅速かつ適切な災害の初期対応を行うには観測頻度は十分とは言い難いです。

広島県を中心に発生した平成30年7月豪雨の際、国交省からの要請を受けてJAXAがだいち2号を用いた同地域の緊急観測を行ったときには、7/6の14時頃に要請を受け、観測をしたのは7/8の0時4分であり、災害発生からSAR観測まで34時間以上経っています。(参考:国土技術政策総合研究所 各災害の強度差分SAR画像による土砂災害判読調査の所要時間

このように、SAR衛星を用いてリアルタイムで被災地の観測を行うことは現時点で限界があります。

解像度の限界

次に解像度分解能ともいいます)についての限界です。

解像度とは、画像を構成する点の密度を示す数値のことです。画像を拡大してみると、小さな点の集合体であることが分かります。この画像を構成するための点(ピクセル・ドット)が多いほど、「高解像度である」ということです。
解像度が高いほど画像が精細・鮮明になり、低いほど荒くぼやけて見えます。

例えばだいち2号の場合、「スポットライト」という観測範囲を狭める(25km×25km)ことで最も解像度を高くした観測モードでも1m×3mなので、どれだけ観測してもこれ以上の地上の詳細な情報は得られません。(参考:だいち2号SARデータの利用提案

例えば、道路の幅が1mにも満たない場合、その道路が破損したときにSAR衛星で観測をしても、十分な精度で破損個所を検出できない可能性があります。

また、高解像度にすればするほど、観測できるエリアが小さくなるため、被災範囲が広い場合に被災地全体の被害状況が分からない可能性もあります。
(参考:だいち2号(ALOS-2)による平成30年7月豪雨の観測結果について
   

観測できないエリアが存在する

さいごにSARの原理上、SAR衛星を用いて地上の観測を行う際、地上に対して斜めから観測しなければならないという特徴があります。

SAR画像に特徴的な現象の概念図
Credit:PASCO

そのため、観測したいSAR画像に建物や山がある場合、その影となる死角のエリア(レーダーシャドウ)が存在します。

他にも、照射するマイクロ波の入射波と反射波が反転し、実際の地表での上下関係が反転する(レイオーバ)という現象も起こるため、本当は被災しているのに被災が判読できないエリアが存在してしまう場合があります。

このように、SAR衛星にはさまざま利用上の限界がありますが、どの問題も技術革新や革新的なアイディアによってその限界も少しずつ改善されてきています。

観測頻度の限界は、SAR衛星を複数台運用する衛星コンステレーションという技術を用いることで、その間隔は大幅に縮められることが期待されています。

また、だいち2号(ALOS-2)の性能をさらに向上させただいち4号(ALOS-4)という、最新型LバンドSAR衛星が現在(2024年6/3時点)開発中で、観測エリアが観測頻度がより増えたSAR衛星が将来的に運用されることとなります。
こちらのページに詳しく載っています)

さいごに

このように、SAR衛星は今現在も着々と技術革新が進んでおり、将来的にはSAR衛星を利用した被災状況の把握や、定期的な道路やインフラの整備、あるいはまだ適用されていないさまざまな分野での運用がされています。
国土交通省も、令和3年7月に、「合成開口レーダー(SAR)の道路土構造物の維持管理への活用マニュアル(案)」を公開し、将来的にSARをインフラ整備に活用することに前向きです。

SARの基本から、活用事例までお分かりいただけたでしょうか。
最後までご覧いただきありがとうございました!

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